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さよなら、田中さん



鈴木るりかの『さよなら、田中さん』を読んだ。田中さん母娘が出てくる短篇が5つ、連作で入っている。
最初の4つは、娘の花実が語り手。最後の「さよなら、田中さん」は、同級生の三上君が語る。鈴木るりかは、小学4年生、5年生、6年生と「12歳の文学賞」の大賞を3年連続で受賞した。
「いつかどこかで」は6年生の時の受賞作。「Dランドは遠い」は4年生の時の受賞作。
大幅に改稿しているとのことだが、鈴木は2003年生まれだから、まだ15歳だ。
子供が書いたものとはとても思えない。
文章がしっかりしている。
適度なユーモアもある。
比喩表現が上手い。
ほろりとさせる。
キャラクターの描き分けがしっかりしている。特に、花実の母親が魅力的に描かれている。
なによりいいのは、人生を肯定的にとらえている点。

実は、少し前に宮澤賢治の父親を描いた直木賞受賞作を読もうとして、3ページくらいで放り出した。一見上手そうに見えるように書いているが、空疎な文体。人間の描き方が浅く、非常に薄っぺらなキャラクター造形などなど。
読んでブログに書こうとしたのだが、断念した。
鈴木るりかを読んでいたら、この直木賞受賞作を思い出した。

生まれ持ったものは、いかんともしがたい。
ほんとうに残念だが、ヘミングウェイの言葉を流用するなら、「持てる者と持たざる者」は確実にいる。

2018/12/12 21:52 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

アレクサ



伊藤比呂美の詩は、好き嫌いが分かれるだろうな。ぼくは昔から好きだが。
あからさまな性描写がある。(実は、余りにもあからさまで即物的なので、嫌らしいという感じはしない。)
そして、死、死骸、腐乱、排泄物のグロテスクな描写。これは人によっては耐え難いかも。
『河原荒草』は主に散文詩集だが、ストーリーがある。
語り手の母親はアメリカの男と結婚する。結婚相手はほどなくして死ぬ。そして遺体は放置される。放置した遺体の腐臭が耐え難くなると、母親は、子どもたちを連れて日本に帰ってきて、前に結婚していた男の家(この男が語り手の女の子の父親)に住む。日本人の父親も、母親がアメリカに行く前に、すでに死骸と成り果てていたのだが。
時々ある猟奇事件を借りて、伊藤比呂美の心象風景を描いているのか。よく分からないが、伊藤が繰り出してくる言葉が読む者を引き付ける。

ニール・ヤングの詞が出てきた。アルバム『ハーヴェスト』からOut on the Weekend
『ハーヴェスト』はレコードの頃から聞いているのに、歌詞が聞こえていなかった。改めて聴いてみると、なかなかいい歌。ニール・ヤングはどちらかというと歌詞だよね。

2018/11/16 18:04 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

“こてこて”のイギリス



今月のクリスティ・プロジェクトは、この1冊。

『牧師館の殺人』はミス・マープル物の最初の長編である。
犯人の設定がポアロ物の長編第1作『スタイルズ荘の怪事件』と同工異曲だ。『牧師館の殺人』という作品そのものは面白いけど、ちょっと似すぎている気もする。
解説によると、クリスティーはマープル物を続ける気はなく、2作目を書いたのは、『牧師館の殺人』から10年以上たってからだという。
シリーズ化するつもりがなかったので、手を抜いたのか。

いかにもイギリスらしい村に、いかにもイギリスらしい人々が住んでいる。
退役軍人に考古学者、牧師に牧師補、医者、そして詮索好きの老嬢たち。もちろん若者と若い娘もいる。
これらの人々の言動を描くのがクリスティーの眼目でもあるのだろう。
いや、こうしたイギリス的な人々は、クリスティーにとっては当たり前のキャラクターだったのかもしれない。だから最初は1作でやめた?
ぼくたち読者がイギリス的で面白いと言い出したので、クリスティーは続編を書き続けたのかもね。
マープル物では、濃厚なイギリスらしさが堪能できる。
ぼくのようなイギリスびいきには、たまらない。

2018/11/07 18:22 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

ギケイキ? ギケイキ!



ストーリーが面白い。
そもそも『義経記』が面白いエピソードで満ちているからね。
ただし、『義経記』を原文で読んだらそうそう楽しめないかも。旧仮名遣いが読めれば何とかなるかもしれないが。
あ、そうそう。『義経記』は、「みなもとのよしつね」を描いているのに、「よしつねき」ではなく、なぜか「ぎけいき」と音読するのが習わしだ。
『義経記』という、ストーリーがメチェクチャ面白い話を、町田は現代の言葉で語る。かなりくだけた現代の言葉で語る。高校の古典の先生が、現代の生活に引きつけて高校生にもなじみのあるように語ったら、こんなふうになるかな。だから平気で、カタカナ語や外国語を入れるし、ラインしたとかメールしたとか、まで書いてしまう。
現代を生きている日本人にしか分からないようなギャグも満載だ。
これが面白い。抱腹絶倒間違いなし。
「長崎は今日も雨だった」の3番のサビを引用したり、ルールルルルッルーと「サザエさん」のテーマを引用したり、ピンクレディーの「私の名前はカルメンです!」なんてのが出てきたり、それはもうむちゃくちゃ。「たった一つの花」だの、「ひるどき日本列島」だの、「天知茂」だの、分かる人は分かるだろう。では「メンタルを病んだ本郷猛のようだ」は分かるかな。
こういう部分から真っ先に古びていくと批判しているレビューもあるが、町田はそんなことは百も承知だろう。
古典の先生が現代の高校生に、つまり町田という小説家が現代の日本人にと言い換えてもいいわけだが、『義経記』の面白さを伝えたいと強く思うとき、そんなことはどうでもいいのだ。まずは現代の小説家は現代の読者に向けて書くのではないか。将来作品が残るかどうかなど二の次ではないだろうか。
しかしまあ、百年くらいたって、この作品に注を付ける文学研究者は大変だろうな。分からなくなっていることがほとんどだろうし、ギャグやジョークを解説するのはオモロくないよ。
今のうちに誰か注を付けておいてあげる?

とはいっても冗談ばかり言っているわけではない。話の運びが上手い。戦闘シーンの描き方も真に迫っていて息もつかせぬ。一気に読ませる。そして『ギケイキ②』では、泣かせるシーンもある。江田源三が死んでゆく場面は涙を絞る。

残酷な場面や、神罰を信じる場面では、義経の注釈が入る。ア、忘れてましたが、『ギケイキ』は全編、義経が語るという形式で話が進みます。
現代から見ると、残酷だ、人権を無視している、あるいは神の罰が当たるなんてことがあるか、と思われるかもしれないが、当時はそれなりに意味があった、などと義経さんが解説してくれるんですね。
『平家物語』もそうだが、軍記物って、武士が着ている鎧や兜、持っている弓などの武器の描写が微に入り細を穿っていて、これでもかと出てくる。正直言って読んでいてウンザリすることもあるが、町田は逃げない。これを現代のファッションに引き寄せて、語ってみせる。これもけっこうおもしろい。
ま、この辺も、高校の先生風っちゃ、先生風ですね。

また、ラストで静がさまようシーンは美しい。
ふざけているようで、押さえるところはきちんと押さえている。
この調子で頑張ってほしいな。

なお、『ギケイキ』は全部で4巻になる予定らしい。
続編が楽しみだ。

2018/10/28 20:10 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

月に添い寝の



お二人の話は徹子の部屋でお馴染みだが、俳句についてだけこれだけ語ったことはない。

富士眞奈美が『奥の細道』は男性に人気があると言っている。
なるほど言われてみればそうかもしれない。
『奥の細道』、20代のころから愛読しているが、そういうふうに考えたことはなかった。

富士眞奈美、テレビを見ていても分かるけど、ほんとに人柄がいいよね。それに話が面白い。
吉行和子は文章が上手い。日本エッセイストクラブ賞を受賞しているんですね。
父親と兄が作家で妹が詩人だから、文才があるのは当たり前か。

『奥の細道』の冒頭の引用で2箇所間違えていると思う。暗唱していたのをそのまま載せたのか。それから、富士眞奈美が嵐山光三郎の解釈が面白いと言っているけれど、話を面白くしている分、ぼくにはつまらなく感じられる。芭蕉を俳聖だなんて崇めるつもりはないけど、面白すぎる解釈もどうかな。
ふつうに読めばいいんじゃね?

吉行和子の句がいい。

松島の月に添い寝の一夜かな
語ること多く残して寒椿

富士眞奈美は俳句を勉強しているだけに、作りこみすぎて、上手いんだけど、響かない。

2018/10/18 21:10 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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