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学問の面白さ



渡部昇一という人を知っているだろうか。
テレビで見たことのある方もいるかもしれない。
テレビの討論番組などで保守的な意見を言っていた。
保守系の評論家という印象を持っている人も多いと思うが、実は渡部昇一は英語史、英語学、英文法などの権威だったのである。
テレビでこの手の話をすることはほとんどなかったので、渡部のすごさが伝わらなくて、ぼくとしては非常に残念に思っていた。

学生の頃に渡部の『秘術としての文法』という本に出会い、その後、渡部が書いた英語学関係の本をかなり読んだ。ドイツ留学記(確か上下2冊で講談社現代新書からでていた)まで読んだ。

渡部という人は本当によく学問をしている。そして物事の本質を捉える力がある。

この本にはおもに講演が収められている。西洋と日本の文化の比較、ダーウィンの進化論とウォレスの進化論、チェスタトンについてなど、平明な語り口で、短くまとまっているが、本質をついている。そして、話の背後には膨大な学識が窺える。
 しかも、話が面白い。
 特に「英語教育における英語史の効用」という講演で、「規則を覚える文法、英文を解剖的に読んでいく文法を軽視することは、志のある学生に対する犯罪である。教師はそう腹をくくって教えるべきだ」という言葉には感銘を受けた。
 なぜ受験参考書的(プレスクリプティヴ)な文法が必要かは、ぼくが要約するよりも渡辺自身の講演で読んでいただいた方がよくわかるだろう。

2019/08/12 17:25 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

使用人が必要だった。



考えてみれば当たり前のことだが、なかなかこういうことに思い至らない。

ヴェルサイユ宮殿は、そこに住む主人たち、つまり王侯貴族だけでは維持してゆけなかった。
そこには、4000人を超える使用人がいたという。
侍従、医者、身の回りを世話する人々、料理人、厩舎の管理、語学教師、消防士、神父その他大勢の人々が働きながら暮らしていた。

また、ヴェルサイユは宮殿を中心とする街だった。
宮殿内に住めない人々は街に住んでいた。

原著は1960年代に出た古い本だが、いまだに読み継がれているという。
日本語訳はこれが初めてのようだ
時々気になる表現はあるが、読みやすく、分かりやすい翻訳になっている。

筆者は古文書学の専門家だったそうだ。
当時の手紙、出生証明書などの教会の記録、メモ、領収書など、あらゆる古文書を精査している。
読んでいると、よくこれほど大量のメモなどが保存してあったものだと、感嘆する。
使用人が書いた手紙などどこかへ行ってしまうのではないかと思うのだが。

そして、これらの古文書を繙いて、興味深い話に再構成する筆者の筆力がこの本を面白くしている。

意外だったこと。
ヴェルサイユで働いていた使用人の一人は、長年仕えたことに対して年金を申請している。
革命で王制がひっくり返ったのだから、年金を欲しいと請求する対象そのものが無くなったのではないかと思ったが、そうでもないようだ。
フランス革命後もしばらくは、王制が維持されていたということか。

2019/07/06 22:28 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

間の詩人



安藤元雄はぼくにとってフランス詩の紹介者だった。
フランス語と対訳の『フランス詩の散歩道』の著者であり、岩波文庫の『フランス名詩選』の編者であり、『悪の華』の翻訳者だった。

先日、図書館の新刊コーナーで、『安藤元雄詩集集成』という白い本を見つけた。
安藤元雄が詩人だったことを初めて知った。安藤の名は何十年も前から知っていたのに。

『安藤元雄詩集集成』には彼が発表した詩集が年代順にすべて収められている。
寡作な詩人だったので詩集は9つしかない。
『秋の鎮魂』から順に読んでいく。言葉の使い方がいい。読んでいて心地よい。例によって、なにが言いたいのかはよくわからないが。
まあ、現代詩は音楽を聴くように読めばいいんじゃないかな。

解説によると、安藤は、田村隆一など荒地派の詩人の下の世代で、谷川俊太郎や大岡信の上の世代だという。モダニズムでもあり、象徴主義的でもある、のかな。
渋沢孝輔や入沢康夫が同世代らしい。
「正統、寡作、孤高、控え目。」というのが彼の詩を特徴づけているという。

9作とも面白く読めた。なかでも『カドミウム・グリーン』と『わがノルマンディー』が良かった。

23歳の時に出した最初の詩集『秋の鎮魂』(1957)から、「初秋」の一部を引く。

(前略)
いぶかしげに見まわすおまえの目に、しかしむろん海もその波も映りはしないだろう。ここは落葉松の林にかこまれた山あいのひっそりした村はずれ、おまえの吸う空気にも樹の肌の匂いがするばかりで、鳥たちの啼声もとだえがちのようだ。だが、そこには少しかしいでその廃屋の白壁がある……
ああ、おまえは信じるだろうか、この壁に遙かに海が秘められているということを。
(後略)

「廃屋の白い壁に海が秘められている」なんて、カッケー! と思いません?

2019/06/01 21:54 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

明治のパリに遊ぶ



与謝野晶子の夫としてしか知られていない鉄幹。

♪妻をめとらば、才たけて~、という詩だけは知られている?

いずれにしても鉄幹は、今では影が薄い存在だが、『鉄幹晶子全集』第10巻に収められている、鉄幹・晶子のパリ旅行記「巴里より」は、旅情をかきたてる。それは鉄幹の文章力に負うところが大きい。文章家としては、鉄幹の方が晶子より上のような気がするな。

実はこれ、鉄幹が旅行中に日本に書き送った原稿と晶子が旅行中に書き送った原稿を合わせて出来ている。二人がそれぞれの視点から書いたパリ旅行通信を東京の新聞社に寄せたものをまとめたものなのだ。

明治44年から大正2年にかけて、パリに旅行した時のことを書いている。
鉄幹は明治44年に出発した。船でスエズ運河からマルセイユを経てパリに入った。
晶子は翌45年にシベリア鉄道でパリに行く。

結構長い本で、しばらく明治の巴里を楽しめそうだ。

2019/05/02 18:14 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

ワシントン・ブラック



時は1830年代。
南米ベネズエラの沖にうかぶ島、バルバドス島のサトウキビ・プランテーションで生まれた奴隷のジョージ・ワシントン・ブラック(この安易な名前の付け方!)。
農場主の弟“ティッチ”が島にやってきたことから、島を出ることになる。
アメリカのノフォークに上陸。そこからまた船でカナダのハドソン湾に行き、エスキモーと共に暮らす。そしてノヴァスコシアへ。そこで知り合った海洋学とその娘と共にイギリスへ渡る。
ワシントン少年の逃避行でもあり、冒険物語でもある。恋愛も、アクションもある。
ストーリーは面白く展開していく。舞台も次々に変わる。
特に後半は、あれよあれよという間に読んでしまった。
ただ、ストーリーがあまりにも上手く出来すぎている嫌いがある。
予定調和的に過ぎる。

純文学系とはちょっと違う。日本で言ったら直木賞作家と言ったところか。
この作品、2018年度のマンブッカー賞候補のショートリストに残ったのだが、受賞は逃した。面白いけど、人間の心の深いところを描いていないのが、受賞を逃した理由の1つか。

作者は若いアフリカ系カナダ人女性。

少し前に、奴隷でヨーロッパに渡ってコメディアンになったショコラの本を紹介した。
ノンフィクションではあるけれど、こちらの方が、話が純文学的だ。

しかし、『ワシントン・ブラック』は面白い話ではある。
そのうち日本語訳が出るだろう。
いや、その前に映画化されるかな。

2019/04/30 16:38 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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