ピアノでギターを聴く



先日、NHKで、数学でビートルズを解く、というような番組をやっていたので、わざわざ録画して見た。が、期待はずれだった。
番組では、数学者でミュージシャンというアメリカ人が、A Hard Day’s Nightの冒頭の和音をついに解明したと、大々的に紹介していた。
A Hard Day’s Nightは、いままでに無数のビートルズコピーバンドが演奏してきているし、本家のビートルズだって、初期の頃はライブでやっていたはずだ。
冒頭の和音が何か、今まで分からなかったはずがないだろう。
そもそも、ぼくだってあの和音は弾ける。ギターを始めて1年くらいの人にだってあのコードは弾けるはずだ……
……それがいまさら解明とはどういうことかと思って見ていると、なんと言うことはない、冒頭のジャーンという音の中には、ギターの音だけでなく、ピアノやベースなどの音も混じっているということらしい。最近のビートルズ研究がどこまで進んでいるか知らないが、わざわざNHKで取り上げるくらいだから、これは新発見なのだろう。
A Hard Day’s Nightの冒頭で鳴っているギターの和音は、Csus4(Cサスペンス・フォース)という名前で呼ばれている。(冒頭の和音がこれだということは、ネットで検索しても大体意見が一致しているようだ。)
番組では、この和音についての説明はほとんどなかったように思う。

ギターのコードというのは、同じ和音でも押さえ方は何通りもある。
A Hard Day’s Nightの場合、ローポジションで、Csus4を押さえているようだ。
昔ヒットしたショッキングブルーの「ヴィーナス」のイントロでも、Csus4を使っているが、こちらは8フレットで弾いている。

ギターで和音を作るには、コードと呼ばれるいろいろな押さえ方を覚える。コードブックというものがあり、ふつう1000から1500通りくらいの押さえ方が載っている。(この中の何十通りかを覚えれば、かなりの曲の伴奏ができると思うが、コードブックというのは辞書みたいなものだから、たくさん載っているのだ。)
コードというのは、Cとか、Am(Aマイナー)とかの押さえ方を覚えて、ジャーンと弾くと、ハ長調のドミソの和音や、イ短調のラドミの和音が鳴るという仕掛だ。
これは、非常にすぐれた仕掛けである。
たとえば、ホ長調の構成和音が、ミソ♯シであることを知らなくても、コードブックでEを探し、ジャーンと弾けば、Eの和音が得られる。ホ長調は♯が4つ付いていて、ソの音が半音上がる、などということは知らなくても一向に差し支えない。楽譜が読めなくても、音楽理論を知らなくても、コードを覚えれば、曲の伴奏ができるようになる。
これは革命的なことだ。
コードのおかげで、たくさんの人たちが手軽に音楽を楽しめるようになった。音楽が専門家だけのものではなくなったのである。
ギターでコードを弾く場合、自分が出している和音の構成音を意識している人は、あまりいないと思う。またそうする必要もない。響きが心地よいとか、かっこいいとか、変わっているとか、を感じるだけだ。
で、このCsus4というコードの響き、かっこいいんですね。
だからビートルズも、ショッキングブルーも使っている。
おそらく、コードブックをあちこちひっくり返して、かっこいい響きの和音を探し当てただけなのだ。(ポールはともかく、ジョンに譜面が読めたとは思えない。)

ところが、Csus4という和音は、ギターで弾くのはわりと簡単なのだが、音楽理論から説明すると、なかなか難しい和音なのだ。
そこで、ビートルズなどの音楽を、専門家が採譜すると、譜面上では高度な音楽理論を駆使しているように見える。実際は、ポジションを覚えれば誰でも弾ける和音なのに。(コードブックというのは音楽理論に基づいて作られているから、結果的には高度な音楽理論を駆使していることになるのは確かだが。)

ここでぼくが言う専門家とは、ピアノで音楽理論を身につけた人たちのことだ。クラッシクを学んできた人たちと言ってもいい。
彼らはピアノを使って、ギターのサウンドを採譜し、それを譜面に書いた。だが、ギターのサウンドは、譜面に書くと難しそうに見えるのだ。
たとえば、F→F#→G→G#→A→A#→B→C→C#→Dという和音の展開を、ピアノで採譜して譜面に書くと、#がたくさんついて難しくなる。ピアノで弾くのも難しいだろう。しかし、ギターならFの押さえ方のまま、1フレットずつずらしていけば簡単に弾ける。(この弾き方も、曲を終えるときに、初期の頃のビートルズは使っていますね。)

で、まとめると、ギターの特性をあまりよく知らない、ピアノで音楽を学んできた人たちが、ギターで演奏されている曲を分析すると、必要以上に讃美することになりがちなのではないかということだ。

番組を見ていて、そんなことを考えた。

2013/02/27 13:34 | 音楽COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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