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飛行士の妻



20歳のフランソワは25歳のアンヌに恋している。
ある朝、飛行士の元恋人クリスチャンが3ヶ月ぶりにアンヌの部屋を訪れ、妻に子どもができたから、妻の元へ帰ると言う。
フランソワはたまたま、2人がアンヌのアパルトマンから出てくるところを見つけ、アンヌは自分を裏切っているのではないかという疑念にとらわれる。

フランソワがパリの街を当てもなく歩いていると、カフェで別の女と会っているクリスチャンを見つける。フランソワは2人の跡をつける。2人はバスに乗り、ビュット・ショモン公園で降りる。
フランソワはたまたまバスに乗り合わせていた15歳の女の子、リュシーと知り合い、2人で、クリスチャンたちを見張ることになる――

ビュット・ショモン公園(19区)でバスを降りたところから、つまりリュシーが出てきてから、映画は面白くなる。
まず、この公園の風景に、インパクトがある。パリにこんなところがあったんですね。
そして、なによりリュシー役のアンヌ=ロール・ムーリの演技がいい。このとき17歳(実年齢)。
かわいくて、溌剌としている。公園でのフランソワとの会話、カメラを持った外国人観光客とのやりとりがお茶目で可愛い。カフェでフランソワをからかう場面での演技も、可笑しくて、魅力的だ。

フランソワ役のフィリップ・マルローは、この映画の封切り直後に事故死した。キャンプのテントが燃えて、焼死したという。ロメールは、同じ俳優や女優を別の映画で何度も使っているから、生きていれば彼もいくつかのロメール作品に出ていたかもしれない。
ムーリは『聖杯伝説』(1978)と『友だちの恋人』(1987)に出ている。
アンヌ役のマリー・リヴィエールも『聖杯伝説』、『緑の光線』(1986)などに出ている。ロメールお気に入りの女優のひとりだ。

『飛行士の妻』(1981)は、ロメールが80年代に製作した「喜劇と格言劇シリーズ」全6作の第1作目。以下2作目から箇条書きで挙げておくと、
2、美しき結婚(1982)
3、海辺のポーリーヌ(1983)
4、満月の夜(1984)
5、緑の光線(1986)
6、友だちの恋人(1987)
となる。
「喜劇と格言劇シリーズ」と銘打っている通り、これらの映画はコメディーである。
大笑いはできないが、確かに少し可笑しい。
「格言劇」と言っているのは、それぞれの映画に格言が付いているから。
『飛行士の妻』に付いている格言は、ミュッセの言葉「すべてについて考えることはできない」をもじって、「ないものについて考えることはできない」である。フランソワの疑念のことを言っているのか。この映画、タイトルが『飛行士の妻』なのに、「飛行士の妻」が写真でしか出てこない。その辺のことを言っているのか。
ちなみに、「格言と喜劇」とは、ミュッセの一連の劇を指すようだ。ロメールはミュッセからヒントを得ているのか。ミュッセの劇を読んでいないので分からない。このあたりは今後の課題である。

ところで、フランソワとリュシーが、クリスチャンたちをつけていくと、2人はある建物に入る。そこで、フランソワとリュシーは、向かい側のカフェに入り、2人が出てくるのを待つのである。先にも書いたが、ここでのフランソワとリュシーのやりとりが面白い。
リュシーはこれから用事があると先に帰ってしまう。
そして、クリスチャンたちがどうなったか、あとで知らせてほしいと住所を残していく。
リュシーの家はフランソワの職場の近くなので、わざわざ切手を貼って出さなくてもいい、家まで来てハガキを郵便受けに投函してほしい、とリュシーは言う。

フランソワはアンヌの部屋を訪れ、話し合うが結局上手くいかない。アンヌは別れ際に、公園で知り合った女の子に手紙を書いてあげて、と言う。
フランソワは尾行の顛末を書いて、リュシーの家に持っていく。
そこで、リュシーが恋人に送られてもどってくるのを見かける。
フランソワは黙って引き返し、切手を貼って、ポストに投函する――

あっけない幕切れで、ぼくは一瞬シュンとなる。
公園とカフェでの2人の様子から、フランソワには、リュシーのほうがお似合いだと感じているぼくは、少しばかり肩透かしを食う。
ここが笑わせるところなのだろうが、ほろ苦い笑いだ。
フランソワが切手を買って、ハガキを投函するシーンのバックに、歌が流れてくる。別れ際に、リュシーの恋人が口笛で吹いていたメロディーだ。
♪~
ぼくはパリに魅了された
パリの魅力に征服された
ぼくの希望はすべて
驚きと不安に変わる
♪~
ぼくはひとりで生きる
屋根裏部屋の屋根の下で
友達からも、他人からも
遠く離れたままで
♪~
しかしそれでも
ぼくはひとり暮らしの孤独を誇りに思う――

――と、哀愁のただよう3拍子のメロディーが続く。
いかにもシャンソンらしいシャンソンだ。
歌っているのは、アリエル・ドンバール。『海辺のポーリーヌ』で、ポーリーヌの年上のいとこを演じた絶世の美女。彼女は歌手でもあるのですね。
ロメール作品では他に、『聖杯伝説』(1978)、『美しき結婚』(1982)、『木と市長と文化会館』(1992)などに出ている。

なお、この歌の作詞作曲はロメール自身が担当している。

2013/02/08 11:22 | 映画COMMENT(0)  TOP

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