鼬の道




岡本綺堂の『三浦老人昔話』は、若い聞き手(語り手)が三浦老人を訪ねて、江戸の昔話を聞くという設定になっている。
鎧櫃に醤油を入れて大阪まで運ぼうとする食通の大名の話や、朝鮮人参を買うために姉が身売りしたのに、母親の病気はよくならず亡くなってしまい、医者を逆恨みして弟が仇を討つ話など、江戸時代の大名から町人まで様々な階級の、ちょっと面白い話や怖い話を、三浦老人が語る。
本の中で、三浦老人や語り手が使っている言い回しで面白いと思ったものをいくつか紹介しよう。
たとえば、「鼬の道」。
『鎧櫃の血』で、語り手と三浦老人は初めて出会う。
三浦老人がいつでも話を聞きに訪ねてくるように言うと、語り手は、知り合ったばかりだから迷惑かもしれないが、「鼬の道は悪い」と思って出かけてゆく。
手元の国語辞典で「鼬の道」を引いてみる。

《イタチは通路を遮断されると、その道を二度と使わないという俗信から》行き来・交際・音信が絶えること。鼬の道切り。

とあって、鴎外の『心中』から、「どうなすったの、鼬の道はひどいわ」という例が引いてある。
なかなかシャレた言い方だ。
シャレた言い方といえばもうひとつ。
『落城の譜』に、下手な講釈師を評して、「横板に飴で、途ぎれ途ぎれに読むのですから遣りきれません」というところがある。
「立て板に水」は聞いたことがあるが、「横板に飴」は初めて見た。飴のようにべたべたくっついて、話が前へ進まない様子がよく出ている。
手元の辞書を引くと、詰まりながらしゃべることのたとえとして、「横板に雨垂れ」というのはあるが、「飴」はなかった。
これも、手元の辞書には載っていないが、「邪が非でも刺青をしてくれ」(『刺青の話』)などという言い回しも出てくる。文脈から判断するに、「是が非でも」を少し言い換えているようだ。

最後に、『鎧櫃の血』からもうひとつ。
雨が降った後で、道がぬかるんでいる中を訪ねて行った語り手に、三浦老人が言う台詞。
「粟津の木曽殿で、大変でしたろう」
長くなりそうなので、これについては次回にゆずる。

2013/08/30 11:04 | 語感COMMENT(0)  TOP

 | BLOG TOP |  NEXT»»