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頼うだお方



『官僚ピープス氏の生活と意見』という本を読んでいたら、25ページで、milordを「頼うだ御方」と訳していた。
英和辞典によると、milordは「御前(ごぜん)、だんな、英国紳士」などという意味だ。
筆者はこれを、ちょっと古めかしく、「頼うだ御方」と言ったものと思われる。
いくつになっても知らない日本語がありますね。この言い回し、初めて聞いた。
まだ読み始めたばかりだが、読書は中断し、少し調べてみた。
そもそもこれ、なんと読むのか。「たのうだ」でいいのか。いいらしいですね。

手元の電子辞書(大辞泉)には、「頼うだ御方」では載っていなかったが、「頼うだ人」なら載っている。
「自分の頼みとする人。主人。」と語釈があって、狂言「末広がり」から、「こちの頼うだ人のやうに、ものを急に仰せ付けらるるお方はござらぬ」という例が挙がっている。

広辞苑第6版(2008)にも、見出し語は「頼うだ人」しかない。語釈には、「わが主人と頼んだ人。主人。頼うだ御方。頼うだ者。」とあるが。
やはり、狂言「末広がり」の例が挙げられている。大辞泉と同じ箇所から、「こちの頼うだ人のように」の部分だけが引用してある。

日本国語大辞典には、見出し語に、「たのうだ=人(ひと)[=お方(かた)]とある。語釈は、「身内・主人と頼んだ人。主人。」だ。
そして、狂言「末広がり」から、大辞泉、広辞苑と同じ箇所が引用してある。というより、大辞泉や広辞苑が、大国語の用例を使っていると言ったほうがいいかもしれない。
大国語には、他に3つほど用例が引いてある。一番古い用例は、天草本伊曾保物語(1593)から。ちなみに、伊曾保物語は、イソップ物語のこと。

ところで、「頼うだ御方」を使っている文章を見つけた。夢野久作の「お茶の湯満腹記」というエッセイ。3ページ足らずの短いものだが、5回使っている。「頼うだ御方」が3回、「頼うだ人」が1回、「頼うだお方」が1回と、表記の仕方はまちまちだ。
夢野久作が、「頼うだ御方」と「今一人の富豪」と3人で、三井物産の設立者、益田孝の家を訪問する。益田は茶人としても有名で、3人はお茶をいただく。そのときの様子を少し茶化して書いたのが「お茶の湯満腹記」だ。

益田孝は英語が堪能で、有能な実業家であった。また茶人としても有名で、鈍翁と号し、利休以来の大茶人と称されたという。大実業家で、趣味人。なんだか、テレビドラマに出て来る黒幕みたいなイメージだな。
ま、それよりも、この人の玄孫、つまり孫の孫が、歌手の岩崎宏美と結婚していた益田なんとかさんだ、という情報のほうが、皆さんには興味深い、かな。

2013/10/31 14:48 | 語感COMMENT(0)  TOP

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