ピート・タウンゼンド自伝



文体がいい。
出来のいい小説のようである。
ザ・フーに興味がなくても、読み出したらとまらない……と思う。
ザ・フーはイギリスのロックバンド。ギターのピート・タウンゼンド、ボーカルのロジャー・ダルトリー、ベースのジョン・エイントウィッスル、ドラムのキース・ムーンの4人組だった。ジョンとキースは亡くなっている(キースについては以前詳しく書いた)。
ピートはザ・フーのほとんどの曲を作詞作曲している。
ロックオペラ『トミー』や、映画『さらば青春の光』(1979)の元になったアルバム『四重人格』など、ピートはもともとストーリー性のあるものが得意だった。しかしここまで書けるとは、驚いた。昔を懐かしがるなどというところが微塵もなく、感傷を交えない、直截的な表現がいい。アゴタ・クリストフの一連の悪漢小説を想起させる。翻訳の森田義信の腕も冴えている。

イギリスでは、自伝・伝記の伝統がある。古くは、『サミュエル・ジョンソン伝』、『ヴィクトリア朝偉人伝』などから、サッチャーやチャーチルの回顧録まで様々だ。ヴァージンの社長、リチャード・ブランソンも自伝を書いていた(これはひじょうに面白かったです。)
そして、これらが単なる出世物語や自慢話に終わらず、文学的にも(あるいは文章として)、すぐれているのがイギリスの自伝・伝記の特徴だ(チャーチルはノーベル文学賞をもらっている)。
日本では、文学といったら、小説やエッセイなどの狭い範囲しか指さないが、イギリスでは、伝記も立派な文学のジャンルとして認められている。
ピートの自伝は、こうしたイギリスの伝統に繋がっている。ただのロックミュージシャンの回想録ではない。ある意味、すぐれた文学作品でもある。

ピートの自伝の1年前に、ローリングストーンズのキース・リチャーズの伝記が出ている。
キースは子供のとき教会のクワイアーに入っていたという。ピートもまたクワイアーで歌っていた。悪ガキのイメージのある2人がそれぞれ、子どもの頃、教会でボーイソプラノを響かせていたというのが面白い。

2013/11/23 11:43 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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