ピーア・デ・トロメイ



イギリスの作家、サマセット・モームの『人間の絆』の登場人物が言う。
「ドニゼッティのオペラ1作と、ワーグナーのオペラすべてを取り替えてもいい」。
この言葉、以前にも紹介したが、久しぶりに『ピーア・デ・トロメイ』を見ていて思い出した。
ぼくはワーグナーのファンでもあるから、モームの言葉に全面的には賛成できないが、やはり、ドニゼッティはすばらしい。

ドニゼッティと言えば『愛の妙薬』が有名だ。これは喜劇の傑作である。
そして、悲劇の傑作と言えば、『ラメンモールのルチア』や『ピーア・デ・トロメイ』を挙げることができる。
ドニゼッティのオペラは、次々に物語が展開し、間然とするところがない。特にこの『ピーア・デ・トロメイ』のストーリー展開は速い。なにしろ、オペラには付きものの長い前奏曲がないのだ。短いイントロのあと幕が上がると、いきなり物語の核心へと突き進む。
ピーアの夫ネッロの従弟ギーノは、ピーアが結婚する前に、ピーアに愛を打ち明け拒絶された。可愛さ余って憎さ百倍。ギーノはピーアの落ち度を見つけようとしている。
ギーノは、ピーア宛の、男からの手紙を手に入れた。そこには、今夜あなたに会いに行く、というちょっと見にはラブレターのようなことが書いてある。ギーノは、ピーアが不貞を働いている証拠として、それを戦場にいる従兄ネッロの元に送るのだ。
手紙を受け取ったネッロは、妻を不貞の廉で処刑するよう戦場から命令を出してしまう。
ピーア宛の手紙、じつは、ピーアの兄からのものだったと判明するが、ときすでに遅く、戦場にいるネッロに、この事実を知らせる手立てがない。

ギーノは自分の愛を拒絶したピーアを陥れようとする。しかし、まだ愛してもいる。
ピーア宛の手紙が、ピーアの兄からのものだと知って、ギーノは激しく後悔する。
ギーノは根っからの悪人ではないのである。
このあたりの気持ちの変化を表現するのが、ギーノ役の聞かせどころだ。シュムンクというテノールが歌っているが、実にうまい。
また、悲劇のヒロイン役、パトリツィア・チョーフィの歌・演技が見事で、ぼくはこれを見て、すっかりチョーフィのファンになった。あの華奢な体のどこから、あのすばらしい歌声が出てくるのか、不思議だ。
このTDKコア・シリーズに入っているほかのオペラも見ていただくと分かるが、いまどきは、美人で、ほっそりしていて、歌も演技もうまいという、何拍子もそろったオペラ歌手がたくさんいる。
死にそうな役なのに、歌っている歌手が、でっぷり太っていて、元気そうで、とてもそうは見えないという指摘は、もう過去のものになりつつあるのだ。

2014/03/30 10:05 | オペラCOMMENT(0)  TOP

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