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献灯使



原発事故から30年後の近未来。
現在60代から70代の人たちは、100歳くらいになっているがすこぶる元気だ。というか、死ぬことができない。ところが、その曾孫たちは病弱で、いつまで生きられるかわからない。
しかし病弱な代わりに、鋭い感性が備わっているし、自分が置かれた状況を悲観したりもしていない。淡々と生きている。
日本は鎖国状態で、東京から北海道や沖縄へ行くのもままならない。地域地域でほとんど独立しているような状態なのだ。
英語は使ってはいけないし、外国のことに言及してもいけない。
かなりユニークな設定だ。
このような状況で、登場人物たちがどのようにして暮らしているのかはよく分からない。ここに出てくるような人たちばかりだと、スーパーで働く人がいるのかとか(パン屋さんは出てくるが)、役所はどうなっているのかとか、細かいところに疑問は残る。そもそもどこから収入を得ているのか、あまりはっきりしない。
しかし、こういうことはどうでもいいと言えばどうでもいい。
日本語の捉え方が独特で面白い。
ユーモアもあるし、皮肉も効いている。文体がすばらしい。
「献灯使」は文章、ストーリ―とも非常によくできている。
多和田葉子は昔から好きで読んでいるが、これは彼女の作品の中でも出色の出来だ。
「献灯使」とともに収められている短編は、それぞれある程度面白いが、この「献灯使」を書くための、スプリングボードだったような気がする。

たしか、多和田さんはドイツに住んで、ドイツ語でも小説を書いていたはずだ。ドイツ語ができるということが、日本語の文体に反映していると思う。

デストピア小説なのだろうが、わずかに希望が垣間見えるのは、彼女の文体に負うところが大きいだろう。
ただ、この描き方をリアルに感じる人もいるだろう。怒る人もいるかもしれない。

2015/01/26 11:51 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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