神話的方法?



ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』は、ホメロスの『オデュッセウス』の構成を枠組みとして、主人公ブルームのダブリンでの1日を描いたものだ。
『ユリシーズ』は、このさえない中年男ブルームの猥雑な人生を多彩な文体で描いている。
『オデュッセウス』という壮大な物語を、中年男のチマチマました人生に投影するという形で、物語が進行する。
詩人のエリオットは、小説のプロットと神話を対比させるこのやり方を「神話的方法」と呼んで、称賛した。

鹿島田真希の『少女のための秘密の聖書』を読んでいて、ジョイスを思い出した。
語り手の少女は中学1年生。母親の再婚相手と一緒に住んでいるが、継父が少女の二の腕に触りたがる。なんだかちょっと危ない状況だ。
少女の家はアパートを経営していて、自分たちもそのアパートに住んでいる。
少女は母親に言いつけられて、店子の一人、浪人中の学生のところに家賃を催促に行く。
そこで、大学生のお兄さんが話してくれるのが、聖書、主に旧約聖書のエピソードだ。
途中からは、ちょっと乱暴だが少女のことを大事に思っている男の子も加わって、家賃を取りに行くたびに,お兄さんから聖書の話を聞く。
「楽園追放」「カインとアベル」「ノアの方舟」「ソドムとゴモラ」「出エジプト」などのエピソードが、毎月家賃をもらいに行くたびに語られる。
聖書の壮大な物語と、少女に色目を使う継父、自分の容姿にしか関心のない母親、学校での出来事などのチマチマした日常が交互に語られる。
これらの対比が面白い。
面白さの理由の一つは、聖書の有名なエピソードの再話が、平易な文体ながら、実に見事に語られていく点にあるだろう。この作家は聖書をよく知っているという印象を受けた。
経歴を見ると、作者は17歳のとき受洗して、正教会の信徒となっている。なるほど。若いころから聖書に親しんでいるから、聖書の物語が自家薬籠中のものとなっているのだ。
児童文学のような表紙の印象とは違って、わりと深刻な内容を、軽いタッチで描いている。

2015/04/27 16:43 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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