モディアノ



『ニューヨーカー』で、2014年にノーベル文学賞を受賞したフランスの作家パトリック・モディアノを紹介していた。
記事の書き出しが面白いのでここに紹介する。翻訳ではなく大雑把に内容を書く。
1941年の12月の午後おそく、その少女はダンスのレッスンを終えて家路についた。占領下のパリはいつもの年より暗かった。彼女は18区の北のはずれに父親と2人で住んでいた。父親はオーストリア生まれのユダヤ人。彼女はこの日、混んでいるメトロにうんざりして、2、3駅前で下車し、歩いて家に帰ろうとした。ところが、9区を歩いていると、通りの向こうの18区は戒厳令が布かれ、ドイツ兵に封鎖されていた。ユダヤ人狩りである。彼女は18区には入らず、その場をなんとか生き延びた。父親のことは考えないようにした――
モディアノの『ハネムーン』(英訳タイトル)はそんな風にして始まる。
ナチによるユダヤ人迫害という重いテーマだが、物語はなかなか洒落た始まり方をする。
のんびりと家路を急ぐ少女が、18区が封鎖されているのを突然知ったときの驚きと絶望が、パリの区割りを上手に使って描かれている。(9区を北上すると18区になる。)
『ハネムーン』はフィクションだ。1941年の『パリ・ソワール』紙に出た尋ね人の記事をヒントにして書かれている。生き延びた少女が父親の行方を捜していたのである。
のちに、モディアノはこの記事を出した女性の足跡を求め、『1941年。パリの尋ね人』(作品社、1998)というノンフィクションを書いている。
ニューヨーカーの記事は、モディアノのほとんどの作品について、紹介している。どの作品も面白そうだ。ノーベル文学賞受賞直後は、モディアノの本は、英語でも、日本語でも、数冊しか出ていなかったが、ここにきて、英語でも、日本語でも、かなりの作品が読めるようになってきている。
ただし、日本語の場合、モディアノは翻訳者に恵まれていない。とんでもなくへたな日本語で訳している作家もいる。そんななか、『嫌なことは後まわし』を訳している根岸純の翻訳がいい。根岸はもう1作『廃墟に咲く花』も訳している。あとは、ぼくは未読だが、堀江敏幸の『八月の日曜日』とか、平岡篤頼の『暗いブティック通り』などがいいかもしれない。

2015/11/07 15:15 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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