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滝口入道



 2か月ほど前にある会合で、高山樗牛の『滝口入道』が話題に出た。そこで、『滝口入道』読み返してみた。ぼくが高校生の頃は新潮文庫で出ていた。とても薄い本。この文庫本、実家の本棚に埋もれているはずだが、本は震災で崩れたまま整理していないので、図書館で借りた。
 岩波から出ている新日本古典文学大系の『明治名作集』の中に入っている。擬古文であるが、総ルビなので、歴史的仮名遣いが読めれば読める。例によって、必要以上に注は見ない。少なくとも、物語を追っている間は注を見ない。注でいちいち切れないで、一気に読むと非常に面白い話だということが分かる。
 
大きく分けると、斎藤時頼の恋と出家、横笛の物語、平家の没落、平維盛と斎藤滝口時頼との邂逅の4つの場面から成る。時頼は横笛に恋をするが、成就せず出家する。横笛は、あたら武士(もののふ)を出家させてしまったと、これも出家する。この恋愛ともいえない恋愛話に、平家の没落の話が絡んでくる。この辺の絡め方が非常にうまい。『平家物語』や『源平盛衰記』を巧みに取り込んでいる。
 先に「恋愛話ともいえない」と書いたが、しかしこれが、哀れ深くロマンチックなのだ。樗牛は日本の古典や漢文学に造詣が深く、歌舞伎や近松なども好きだったようだ。しかも英語が出来たから外国のものも読んでいる。 
 プロットがよく出来ている。ちょっと覗いてみるつもりが、読み出したらやめられず3日で読み切った。次はどうなるのだろうという書き方で読者を引っぱっていく(いわゆるサルペンスですね)。時頼や横笛の心理描写など、当時は斬新だったという。
 解説によると、『滝口入道』は高山樗牛が初めて書いた小説である。明治26年に読売新聞が募集した懸賞小説の1等賞なしの2等賞だ。1等を取れなかったのは、尾崎紅葉など4人いた審査員のうち、坪内逍遥が強く反対したためだという。坪内は歴史小説に「歴史の再現」を求めた。『滝口入道』は、『平家物語』のストリーと違うところがありそれが気に食わなかった。
 しかし、坪内の批判は自身の作品への批判となって返ってくる。上田敏や、懸賞小説の審査員の一人だった依田学海が、坪内の小説こそ「歴史の再現」になっていないと批判した。さらに樗牛も批判した。

 高山樗牛が『滝口入道』を書いたのは、帝大1年生、23歳の時だった。樗牛はのちに文芸評論家として名を成す。31歳で喀血して亡くなるまで、歴史、美術、哲学等様々な分野の評論を行った。
 23歳という若さでなぜこのような文体が書けたのか。
 山本夏彦は、樋口一葉が20代前半に、「たけくらべ」や「にごりえ」などの擬古文が書けたのは、伝統の力だと言っている。
 高山樗牛もそうなのだろう。
 若いうちに古典を吸収し、血肉と化すことができれば、こういう文体を書くことも可能なのだろう。それにしても、いまから見ると、想像をはるかに超えた、途方もないことのように思われるが。

2018/02/04 22:13 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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