イヴォンヌの香り



パトリック・モディアノをフランス語で読むプロジェクトを始めた(と言っても、自分で勝手にやっているだけだが)。
モディアノは2014年にノーベル文学賞を受賞したので、知っている方も多いと思う。
モディアノの作品が10作入って4000円ほどのペーパーバックが売りに出ていたので、買ってみたのだ。小さい字でびっしり書いてあるかと思いきや、大きめの字でゆったりと組んである。これは読みやすい、というわけで、最初に収録されている作品から順に、日本語訳を参照しながら(いや、ほとんど日本語で読んでいるかも)、フランス語の原文を読んでいる。で、最初に収められているのが、1975年作の『イヴォンヌ香り』だ。原題はVilla Tristeで、直訳すると「悲しみの館」という意味。

語り手の「ぼく」は18歳、自称ロシア系の伯爵。「ぼく」は、避暑地での夏の思い出を語る。1950年代の後半から60年代の初めにかけての或る夏。
「ぼく」はレマン湖のほとりの保養地に避暑に来ている。レマン湖はフランスとスイスの国境にあり、フランスからスイスまで湖を隔てて5キロしか離れていない。
自称映画女優のイヴォンヌ、医者らしい30代後半の男マント、そして「ぼく」の3人は、湖畔の町で無為な日々を送る。3人でパーティーに出かけたり、イヴォンヌが美人コンテストに出場して優勝したり、「ぼく」がイヴォンヌのおじさんの家に招待されて、イヴォンヌと2人で出かけて行ったりと、これといったストーリーはない。だが、モディアノが語ると、なぜか話に引きこまれる。
特に、冒頭の、保養地の駅に降り立った「ぼく」が眺める駅前の風景の描写がいい。ホテルや通りの名前がたくさん出てくる。ひとつとして知っている名前はないのに、なぜか懐かしい。これで一気にフランスの保養地に連れて行かれる。
他の作品でもそうだが、モディアノの書くものには、地名、人名、商品名などがたくさん出てくる。フランスのパックンには、固有名詞への偏愛があるようだ。

お年寄りしか集まらないような保養地になぜ「ぼく」が来ているのか。それはアルジェリア戦争を避けるためらしい。つまり徴兵忌避。捕まりそうになったとき、スイスに逃げるのに好都合ということで、この地を選んでいる。
ここでアルジェリア戦争(1954‐1962)が出てくることで、ただの避暑地の恋を描いた物語ではなく、作品に奥行きが出る。しかし、アルジェリア戦争はあくまでも遠景である。この辺もフランスのパックンの上手いところだ。

ここで話は昨夜のことになる。
白水社の雑誌『ふらんす』の2016年6月号を読んでいたら、アルジェリア戦争の話が出てきた。21ページ。「ヨシとクニーのかっ飛ばし仏語放談」という記事で、ボリス・ヴィアンの『脱走兵』というシャンソンに触れている。
「ヨシとクニー」は、沢田研二はミシェル・ポルナレフの『忘れじのグローリア』(1970)を自分で訳して歌っているとか、フランスでもデビューしていて、キャッチコピーは「フランスのミシェル・ポルナレフ」だった、などと話し合っている。その後で、沢田はボリス・ヴィアンの『脱走兵』(1954)も訳して歌っている、と言っているのだ。
そして、ヴィアンの歌詞の内容を説明し、これは反戦歌で、1954年はアルジェリア戦争が始まった年だと注釈を入れる。

パックンとジュリーがアルジェリア戦争で繋がった。

2016/06/26 18:02 | エッセイCOMMENT(2)  TOP

コメント

Re: タイトルなし

大昔ですが、ビートルズのI'm downとか、ストーンズのTime is on my sideとか、タイガースがテレビで歌っていたのを見たことがあります。なるほど、そういう事情があったんですか。それで選曲のセンスが良かったんですね。

No:16 2016/06/29 11:46 | desultory #- URL [ 編集 ]

ジュリーのいたタイガースって,デビュー前はローリングストーズのコピーとかばりばりやってて、メジャーデビューする曲が、ちょっと通俗なので最初はやだったらしい。。。などというエピソードを思い出しました。

No:15 2016/06/29 08:40 | keity #- URL [ 編集 ]

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