トーマス・マン日記



トーマス・マンの日記を借りた。
図書館で見て、装丁に惹かれた。全体は、ほとんど黒に近い、くすんだ濃い緑色。表紙裏表紙には何も字は書いてない。背に朱色で「トーマス・マン 日記 1918-1921」と書いてある。朱色もかなりくすんでいる。非常に落ち着いた色で、全体的にかなりシックな印象。(写真は箱の表紙。ぼくが見たのは箱もカバーもとったもの。)
800ページを超える大部の本だが、これを見たら、借りるしかない。

日記に出てくる人物や出来事に詳細な注がついている。大変立派なものだが、例によって注はパスする。どうしても知りたい事項だけちらっと確認する。それに、どうせおびただしく出てくる人名、しかもほとんどが初めて聞く名前など、一度注を読んだくらいでは覚えておくことはできない。
残念だが注を読んでいると、マンの日記が1日ごとに中断されて、ひとつながりのものとして頭に入ってこないのだ。それに翻訳とはいえ、マンの日記の部分の文体と注の文体が明らかに違う。マンの文章の方が面白い。学者が訳すと、文学的でなくなる場合が多いが、この翻訳は優れている。(少し前にシュトルム全集が出た。これは立派な本で期待したが、翻訳の日本語は残念だった。)

トーマス・マンの日記は、紀伊國屋書店から全10巻本の翻訳が出ている。これは1933年から55年までの日記を収録している。トーマス・マンは若い頃からずっと日記をつけていたらしい。日記の記述を元にして小説を書いていたという。そして小説を書きあげると、小説に使用した日記は廃棄してしまったらしい。というわけで、1933年より以前の日記は残っていないらしいのだが、1918年‐1921年の日記は、マンが廃棄するのを忘れ、1933年の日記と一緒に保存してあったのだという。
残ってよかった。こんなに面白い日記を廃棄していたら、もったいなかった。

1918年11月に第1次世界大戦が終わった。マンの日記は18年の9月から始まる。ドイツは敗戦国。国内の混乱ぶりが日記から窺える。日記を読んでいると、第1次世界大戦後の講和条約などでドイツを追い込んだのは、戦勝国のアメリカ、フランスなどだということが分かる。ここまで追い込まれたから、ナチスが台頭してきたのですね。
この時期は『魔の山』を書いている時期でもあった。
オーストリアの作家、シュティフターの『晩夏』に言及している箇所がある。『晩夏』が『魔の山』の影響を受けているのかと思っていたが、どうも逆らしい。マンは日記で『晩夏』を称賛している。
日本では『魔の山』の翻訳は古くから出ているが、『晩夏』がちくま文庫で出たのは2004年と遅かったので、ぼくが勘違いしていたようだ。最近本棚の模様替えをしたら、ちくま文庫の『晩夏』上下巻が出てきた。そう言えばこれ、買っただけで読んでいなかった。上巻の裏表紙を見ると、「トーマス・マンが『世界文学のなかでも最も奥深く、最も内密な大胆さを持ち、最も不思議な感動をあたえる――』と評した作家の最高傑作。」と書いてある。
うーん。裏表紙さえも読んでいなかったのだ。
積読もここまで来ると、筋金入りですね。

最近、第1次世界大戦関係の本が多く出ているように感じていた。今日書店で、歴史コーナーを見ていたら、確かにここ2、3年のうちに出た本が多い。で、思い当ったのだが、第1次世界大戦が始まったのは、1914年、2014年でちょうど100年になる。開戦100年記念というわけで、様々な関係本が一気に出たらしい。そしてそれが今も続いている。終戦100年までまだ少し残っているから。
マンのこの日記も、この流れの中で出てきたのだろう。

2017/05/05 20:56 | 本の紹介COMMENT(2)  TOP

コメント

Re: タイトルなし

>まだ読まれているんでしょうかね。
現代読まれているかどうかは分かりませんが、ほとんどの作品が日本語に翻訳されています。
堀辰雄がドイツ語の授業でシュティフターの短編を読んだと書いているそうです。
古井由吉は、ドイツ文学者でもありますが、シュティフターが好きだと作品のあちこちで書いているそうです。

『晩夏』というタイトルがいいですよね。それに長いし。ぼくの好みです。
マンだけでなく、ニーチェも、ハイデッカーも賞賛しているようですよ。


No:41 2017/05/06 22:20 | desultory #- URL [ 編集 ]

懐かしいですね、トーマスマンとシュティフター...私はシュティフターの水晶を読んだことがありますが、冬、遭難しかけた二人の幼いきょうだい(兄と妹)の話で、感動した覚えがあります。まだ読まれているんでしょうかね。

No:40 2017/05/06 21:40 | Keity** #- URL [ 編集 ]

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