梅は咲いたか



三味線などを伴奏にして歌う端唄(はうた)というのがある。江戸の末期に庶民の間で流行ったそうだ。歌詞は七五調が基本で、読みやすく、本来歌うためのものだから、調子がいい。
現代まで歌い継がれているものもある。例えば「お江戸日本橋」とか、「梅は咲いたか、桜はまだかいな」なんていうのも、元は端唄だ。漫才の内海桂子好江がよく歌っていた「奴さん」なども『端唄集』に入っている。
たいていは恋の歌、ラブソングが多いが、世相や政治を反映しているものもある。
幕末に流行ったので、ベリーの黒船来航や大津絵について歌っているものなどもある。古典に材を取ったものもある。源氏物語を桐壷から始まって、1帖ずつ3行くらいに筋を要約した端唄がある。長い話を思い切り短くするわけだから、元の話を知らないと理解できない。こういうものが流行ったということは、江戸の庶民の間では源氏物語の筋がかなり浸透していたことが窺える。また、百人一首を1首ずつ下敷きにして、都々逸にしているのもある。これは注に元の和歌がついているので、どこをどうもじったか、分かりやすいし、面白い。
忠臣蔵に材を取った端唄もある。こちらも、1段目から11段目まで、各段の筋を短くまとめている。これも忠臣蔵の筋を知らないと、まとめ方があまりにも簡単でよくわからないだろう。子供向けの『仮名手本忠臣蔵』を読んでから、読み直してみたら、これらの端唄が非常によくできているのがよくわかった。
例によって岩波文庫の注は簡単だ。
例えば、1番目に収められている「松づくし」。数え歌になっている。「壱本めには いきの松 弐本めには 庭の松 三本めには さがり松……」と十(とお)まで続く。ところが7番目が「七本めには 姫小松」となっている。「いっぽんめ」が「いきの松」、「にほんめ」が「庭の松」ときたら、7本目は「しち」の「し」か、「なな」の「な」から始まる松が来そうだが、「ひめこまつ」と「ひ」になっている。
もう、お気づきの方もいると思うが、江戸っ子は「し」を「ひ」と発音していたので、七本目は「ひちほんめ」と読むのでしょうね。中高年だけでなく若い人にも読んでほしいのなら、こういうところに注を付けるべきではないか。
また、例によってエロティックなところには全く注がついていない。
『端唄集』の中に「俗謡十種」というのがあって「三」に「とっちりちん」というのがある。「とっちりちん」の最初に収められている「十二ヶ月」という俗謡は、正月から12月まで月ごとに、月々の行事などを読み込んでいる。これの「八月」と「十一月」にだけ全く注がない。「十一月」はエロティックなことを歌っているが、内容が分かりやすいから注がないのだろう。「八月」の方は、おそらく、恥ずかしくて注が付けられなかったのだろうな。
興味のある方は『端唄集』の133ページを、書店でそっと覗いてみてほしい。

図書館で検索したら、端唄のCDがけっこうある。美空ひばりが端唄を歌っているものがあったので借りてみた。これは本格的ですね。全く歌謡曲臭がない。古典芸能になっている。

2017/06/20 21:36 | 本の紹介COMMENT(2)  TOP

コメント

Re: タイトルなし

非常に上手いです。

きっと子どものころから端唄に親しんでいたのでしょうね。


No:45 2017/06/22 11:06 | desultory #- URL [ 編集 ]

美空ひばりは、やっぱり天才だったんですね。たしかジャズも上手だったのでは。

No:44 2017/06/21 22:24 | Keity** #- URL [ 編集 ]

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