ホサナ 1



今どきの若者は、この文体についていけないだろうな、と思った。
アマゾンのレビューを見ると、わけが分からないとか、漢字が読めないとか書いている人が目立つ。読者を選ぶのか、と憤慨している人もいるが、どんな小説でも読者を選ぶでしょう。万人向けなんて本はない。で、この本、かなり読者を選ぶ、と思う。
5つ星をつけて、褒めている人もいるが、テーマについて語っているだけで、文体について語っている人がいない。ぼくとしては、この文体をこそ楽しんでほしいのだが。もちろん、ストーリーも面白い。700ページほどある大作だが、1週間ほどで一気に読んだ。
「商品の説明」に載っている藤田直哉が「文春」に書いた書評は文体に言及している。この書評、床屋の待合室で拾い読みして、『ホサナ』をよく分かっている、さすがプロの書評家だな、と思ったので印象に残っていた。やはりここに使いますか。

『ホサナ』を読んでぼくが真っ先に思い浮かべたのは、ジョイスの『ユリシーズ』だ。「第十四挿話 太陽神の牛」という章がある。ウィキペディアの記述を参考にしてまとめると、この挿話は、
「英語文体史を概括するパスティーシュ(文体模写)の集積で成り立っており、古代の呪いから始まって、ラテン語散文、古英語の韻文、マロリー、欽定訳聖書の文体、バニヤン、デフォー、スターン、ウォルポール、ギボン、ディケンズ、カーライルというふうに次々と文体が変わってゆき、最後にスラングまみれの話し言葉となって終わる」という。つまり英語の文体を古代から現代まで総まくりにして書いているわけだ。
丸谷才一はこれを祝詞の文体から始め、古事記、日本書記、源氏物語、平家物語などから江戸、明治、大正、昭和と、現代まで、日本語の文体総まくりで翻訳している。アイディアは面白いし、文体模写をする丸谷の力量も素晴らしいと思うが、少し凝りすぎた。
町田の文体はここまで凝ってはいない。しかし、古事記から平安、江戸、明治の文体、そして現代の俗語に至るまで、日本語の文体を自家薬籠中のものとし、丸谷よりも、ずっと肩の力を抜いて、古今雅俗の日本語をこき交ぜた、軽妙で独特の文体を作り出している。

この本、一部書評で取り上げられているだけで、それほど話題になっていない。こういう本を面白がって読む読者が増えると、いいな、と思う。

2017/09/11 18:26 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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