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ツェッペリン飛行船と黙想



自然主義の作家で上林暁(かんばやしあかつき)という人がいる。マイナーな作家なので知らない方も多いと思うが。ぼくは、名前だけは知っていたが、読むのは今回が初めてだった。
図書館で、『ツェッペリン飛行船と黙想』というタイトルの、わりと新しい本が目に付いた。ツェッペリンという文字に惹かれて手に取った。
これは上林暁全集から漏れた原稿を編集したものだという。小説あり、エッセイあり、アンケートの答えあり、最後には升田幸三と大山康晴の将棋の観戦記まで入っている。(最後の観戦記は、不思議なことに、将棋を知らなくても楽しめる。)
どの文章もわりと面白かったが、とりわけ、巻頭に収められている「ツェッペリン飛行船と黙想」という自由詩がよかった。モダニズムなんですね、これが。
上林は東京帝国大学の英文科の出身なので、英語でエリオットを読んでいたのかもしれない。T・S・エリオットが『荒地』を発表したのが1922年、上林の詩が発表されたのは1929年なのだ。
以下に、「ツェッペリン飛行船と黙想」を引用する。視覚的な効果もかなりあると思うので、できるだけ原文に忠実に旧仮名旧漢字で書き写してみる。しかし、例えば「しんにょう」の点が2つの字や中に「母」が入っている「海」の字は、ワードでは変換できなかった。ちなみに、GRAFとはドイツ語で「伯爵」のこと。エッケナーはツェッペリン飛行船の船長である。

1

彈丸の如く飛來する球體、
豚の如く立ちはだかる鈍體、
鯨の如く游泳する白銀體、
騎馬の如く旋航する發光體、
又、彈丸の如く雲に突入する球體、
――この媚態(コケツトリ)はマネキン・ガール以上だ。

2

プロペラの超廻轉、
ゴンドラの窓、
ローマ字のGRAF ZEPPELIN
船腹、
舵機はするめいかの尾、
雲、
空、
爆音、
エッケナー、
軍備擴張、――
人は彼の豐富な素材を黙想しながら、
何も考へてゐない

3

素睛らしい引力だ、
人は上層に舞ひ登つた。
アパートメントの屋上庭園、
事務所の屋根、
バラツクの物干臺、
煙突の梯子、
工場のフツトボール競技場。
そして、
郊外の共同住宅では、
杉の木のてつぺんによぢ登つた朝鮮の少年が、
「ドイツのツエツペリン」を見ながら、
郷愁の涙を流した。

4

その夜、
ボーデン湖の朝霧、ウラルの月空、シベリアの霧海、韃靼海峡の闇、太平洋の海風を貫いた灰色の巨船が、私の頭の中を白々と通過した。

2018/01/05 22:57 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

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