詩人なんて呼ばれて



70年代から80年代くらいまでは、県立図書館の東側の壁一面の本棚が現代詩の詩集で埋まっていた。(今では経済関係の本で埋まっている。)左端から順に借りて行って、壁一面の詩集を読みつくした記憶がある――といっても、誰を読んだかあまり覚えていないのだが。ただ音楽を聴くように次から次へと読んでいったんじゃないかな。
谷川俊太郎のインタビュー集『詩人なんて呼ばれて』を読んでいると、現代の詩人の名前がたくさん出てくる。そのほとんどをぼくは読んでいるが、どんな詩だったかはほとんど覚えていない。音楽を聴くように読んでいたから。
この本では、インタビュアーの尾崎真理子が各章ごとに、現代詩における谷川の仕事などを解説している。これがよくできている。2章の解説はミニ現代詩史になっていて、谷川の占める位置が的確にとらえられている。
3章では村上春樹と谷川を比較しながら論じている。村上と谷川は資質的にも、文壇と詩壇での立ち位置的にも、似ているという。今までこういうことを言う人はいなかったような気がする。尾崎の指摘は面白いし、当たっていると思う。

谷川は売れる詩を書いているということで詩壇からは快く思われていなかったという。詩壇に興味がなかったので、ぼくは知らなかった。谷川は最初から好きだったし。
谷川を評価したのは大江健三郎であり、丸谷才一や山崎正和であり、大岡信だった。

「荒地」世代の詩人はいったん伝統と切れた。
今から見ると、これがエリオットを十全に理解できなかった要因かもしれない。
伝統の上に文学が成り立つというのがエリオットの意見だから。
エリオットの詩は読んだかもしれないが、評論は読まなかったのかもしれない。
エリオットの伝統主義、古典主義を標榜するのは、日本では丸谷才一などであった。その丸谷が谷川を買っているのが面白い。

谷川は詩論を展開するのではなく、その考えを実作で示し、成功した。

2018/01/19 22:20 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

フランス・ギャルの訃報



1月8日付の読売新聞の訃報欄でフランス・ギャルの訃報を見た。70歳だという。残念だ。しかし、CDをかければいつでもギャルの声は聴ける。
歌手っていいですね。いつまでも作品が残るから。
ギャルについては、「初めての本当のバカンス」に書いたので、ここでは詳しく述べない。

夫に先立たれ、さらに娘も亡くし、引退していた。
アイドル時代にはこんな人生になるとは思っていなかっただろう。
でも、彼女の歌は残る。

2018/01/08 17:27 | 音楽COMMENT(2)  TOP

語学は必要か



外山滋比古は日本語についてたくさんエッセイを書いている。
俳句の研究とか、読書論などでも名高い。
しかし、専門は英文学なんですね。
『英語青年』という雑誌の編集に長年かかわってきた。
で、90歳を超えた外山が、日本の英語教育、英文学の将来を危惧して書いたのがこの本だ。
まずここ100年の日本の英語教育・研究を振り返る。と言っても、書き方は軽いエッセイ風で内容も面白く読みやすい。英語に興味のある方には、お勧めだ。

漱石の英文学研究は、本国英国に先んじていたというのは初耳だ。
漱石はイギリスの大学の英文科に留学したかったのだが、当時イギリスには英文科(つまり英文学を研究する学科)がなかったのだという。それで、漱石は自分で心理学や社会学の本を読み込んで文学理論を打ち立て、それに則って英文学を研究したというのだ。
しかし残念なことに、漱石の「文学論」は学生たちには不評だった。それはそうだ。まだ誰も考えたことがないものなのだから、漱石以外に分かるわけがない。
アインシュタインを思い出させる。
もっと残念なのは、漱石の文学論は日本語で書かれているため、いまだに英米人に知られていないこと。そして、もっと残念なのは、漱石の文学論は学生の講義ノートをもとにして再構成されているので、内容が不十分だということ。
漱石が書けばよかったのだろうが、あまりにも不評だったので、漱石は文学研究を捨てて小説にシフトしてしまった。この後、日本の英文学者はイギリス、アメリカのマネばかりで今日に至る、と外山は言う。かなり手厳しい。
また今後の英語教育についても憂えている。語学は思考力を高めるとしきりに擁護する。
ぼくは、外山が挙げる外国語学習の効用にはすべて同意する。外山が真正面から語学の効用を述べているのを読むと、これって、英語教育への皮肉? 褒め殺しでは? という考えが一瞬よぎる。
外山の眼から見ると、いまの語学教育は危機的状況に見えるのだろう。外山は大まじめで語学の効用を説いているのだ。
これに応える英語教師はいるか。

2018/01/07 18:26 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

ツェッペリン飛行船と黙想



自然主義の作家で上林暁(かんばやしあかつき)という人がいる。マイナーな作家なので知らない方も多いと思うが。ぼくは、名前だけは知っていたが、読むのは今回が初めてだった。
図書館で、『ツェッペリン飛行船と黙想』というタイトルの、わりと新しい本が目に付いた。ツェッペリンという文字に惹かれて手に取った。
これは上林暁全集から漏れた原稿を編集したものだという。小説あり、エッセイあり、アンケートの答えあり、最後には升田幸三と大山康晴の将棋の観戦記まで入っている。(最後の観戦記は、不思議なことに、将棋を知らなくても楽しめる。)
どの文章もわりと面白かったが、とりわけ、巻頭に収められている「ツェッペリン飛行船と黙想」という自由詩がよかった。モダニズムなんですね、これが。
上林は東京帝国大学の英文科の出身なので、英語でエリオットを読んでいたのかもしれない。T・S・エリオットが『荒地』を発表したのが1922年、上林の詩が発表されたのは1929年なのだ。
以下に、「ツェッペリン飛行船と黙想」を引用する。視覚的な効果もかなりあると思うので、できるだけ原文に忠実に旧仮名旧漢字で書き写してみる。しかし、例えば「しんにょう」の点が2つの字や中に「母」が入っている「海」の字は、ワードでは変換できなかった。ちなみに、GRAFとはドイツ語で「伯爵」のこと。エッケナーはツェッペリン飛行船の船長である。

1

彈丸の如く飛來する球體、
豚の如く立ちはだかる鈍體、
鯨の如く游泳する白銀體、
騎馬の如く旋航する發光體、
又、彈丸の如く雲に突入する球體、
――この媚態(コケツトリ)はマネキン・ガール以上だ。

2

プロペラの超廻轉、
ゴンドラの窓、
ローマ字のGRAF ZEPPELIN
船腹、
舵機はするめいかの尾、
雲、
空、
爆音、
エッケナー、
軍備擴張、――
人は彼の豐富な素材を黙想しながら、
何も考へてゐない

3

素睛らしい引力だ、
人は上層に舞ひ登つた。
アパートメントの屋上庭園、
事務所の屋根、
バラツクの物干臺、
煙突の梯子、
工場のフツトボール競技場。
そして、
郊外の共同住宅では、
杉の木のてつぺんによぢ登つた朝鮮の少年が、
「ドイツのツエツペリン」を見ながら、
郷愁の涙を流した。

4

その夜、
ボーデン湖の朝霧、ウラルの月空、シベリアの霧海、韃靼海峡の闇、太平洋の海風を貫いた灰色の巨船が、私の頭の中を白々と通過した。

2018/01/05 22:57 | 本の紹介COMMENT(0)  TOP

ハリー・ニルソンの肖像



1月3日の読売新聞の1面の下段の広告欄に『ハリー・ニルソンの肖像』という本の広告が載っていた。出版元は国書刊行会。国書刊行会は、海外のホラーや日本の古典の中から、マイナーでマニアックな本を出しているイメージだから、ちょっと驚いた。
2013年に出たニルソンの伝記の翻訳が、なんで今頃国書刊行会から出るのか不思議だ。
今の日本では、ニルソンもマイナーでマニアックということか。

まだ中身は見ていないが表紙の絵が面白いので取り上げてみた。
中央に描かれているニルソンが左手に抱えている人形と右後方の黄色い風船と人差し指を立てている手のオブジェは、ファースト・アルバム『パンディモニアム・シャドウ・ショウ』のジャケットに描かれていたもの。ファースト・アルバムには、収録されている曲にちなんだ絵が描いてある。例えば、ニルソンが持っている人形は3曲目のCuddly Toy(抱きしめたくなるようなかわいいおもちゃ)という曲にちなむ。
ニルソンの右に小さく描かれているのは、スカートをはいたジョン・レノン。これはジョン・レノンをプロデュサーに迎えたアルバム『プシー・キャッツ』のジャケットから。ジョンの横にいる青い犬は、アルバム『オブリオの不思議な旅』に出てくるアローだ。
そしてジョンとアローの後ろに描かれている黄色い自動車は、アルバム『ランディ・ニューマンを歌う』のジャケットから。その後方の空を飛んでいる複葉機は、セカンド・アルバム『空中バレー』から。
指のオブジェに寄りかかっているのは、アルバム『おれたちは天使じゃない』をほのめかしているのだろう。こういう絵はジャケットに描いてなかったと思うが。
この本の表紙は、『パンディモニアム・シャドウ・ショウ』『空中バレー』『オブリオの不思議な旅』『プシー・キャッツ』と、ジャケットが絵で描かれているこれら4枚のアルバムの表紙から、引用しているようだ。(『おれたちは天使じゃない』のジャケットは写真)。
実はもう1枚ジャケットが絵で描かれているアルバムがある。『パンディモニアム・シャドウ・ショウ』と『空中バレー』の2枚のアルバムの曲を、少しアレンジを替えてまとめて収めている『ニルソンの詩と青春』だ。このアルバムジャケットには古い建物が描かれているのだが、この本の表紙の家とは違うようだ。
 この本の目次をみると、各章のタイトルをニルソンの歌のタイトルからとっていることが分かる。これもなかなか洒落ている。
詳しいディスコグラフィーも付いている。
ニルソン・ファンにはcuddlyな本だ。

2018/01/03 21:47 | エッセイCOMMENT(2)  TOP